これまで私たちは、食品の中のある機能性成分、身体の健康維持に必要な物質に着目して、いろいろな研究をしてきました。2016年春に、小豆島で栽培されている長命草がもつ機能性成分について調べてほしいという依頼があり、百十四銀行学術文化振興財団の助成金を活用して研究を始めました。
農産物に含まれている機能性成分のひとつである LPS(リポポリサッカライド)は、植物自身がもともと持っているものではなく、植物と共生しているグラム陰性細菌がつくっている物質なんです。土の中、特に根のまわりにたくさんいて、そうした菌からいろいろな栄養を植物は得ています。
植物は空気中に存在している窒素をそのままでは栄養として利用できないのですが、細菌が窒素を固定してくれることで取り込めるようになります。ほかにも植物が成長していくため必須の元素であるリンは地中に溶けない形で存在していますが、リンを溶かして植物が使えるようにするのも細菌です。栄養面でももちろんですが、ときには菌が植物の中にまで入って(エンドフィット)病気を防いでくれることもあるのです。そうやって植物と細菌は共生して進化を続けてきました。
小豆島の長命草は農薬と化学肥料を使わない有機栽培でつくられています。じつは化学肥料や農薬は、共生細菌にとって天敵です。化学肥料を与えることで植物は簡単に窒素やリンを得て大きくなることができますが、そうなると植物にとって細菌と共生する必要がなくなるので、細菌はどんどん少なくなります。結果的に、化学肥料で育った植物は病気に弱くなる。病気に弱くなると農薬が必要になる。
こうやって負のスパイラルになっていくのです。
小豆島の長命草は農薬を使用せずに栽培されているので、共生細菌も多く存在します。今後、栽培方法の工夫をすることで機能性成分をより増やすことができるはずです。長命草という名前も素晴らしいですよね(笑)。健康になるものがたくさん含まれているんだろうなと期待感がもてるネーミングです。
ただ一般の方々に知っていただくためには、情報を発信しつづけることが大切です。機能性を表示するためには人間での臨床試験が非常に重要で、それには時間もお金もかかります。
『しょうどしま長命草プロジェクト』は産・学・官が連携して協力体制をとって発信していこうというのはとても凄いことだと思います。私たちは研究者ですので、長命草がもっている機能性の研究を続け、それを学会に発表する努力をつづけて、このプロジェクトをサポートしていきます。
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稲川 裕之先生
埼玉大学工学部卒、薬学博士
香川大学医学部統合免疫システム学 客員教授
新潟薬科大学 特別招聘教授
自然免疫制御技術研究組合 研究本部長比較免疫学的研究視点から食細胞の生物活性に基づいたすべての生物の健康維持の仕組みに着目、基礎だけでなくその応用として難治性疾患予防・治療への利用に及ぶ研究を30数年つづけている。また、グラム陰性菌のLPS(免疫ビタミン)が多細胞生物の健康維持に有用な作用があることを30年前に見出し、以来 LPS の有用性に着目した研究も展開している。NPO 法人環瀬戸内自然免疫ネットワーク理事、自然免疫応用技研㈱副社長など兼務。
明治11年に設立され、香川県高松市に本店を置く百十四銀行は、香川県最大の銀行であり県内の企業の多くがメインバンクとしています。「お客さま・地域社会との共存共栄をめざす」を経営理念とした百十四銀行を母体とする一般財団法人「百十四銀行学術文化振興財団」は、香川県の産業・学術・文化の発展に資する活動を幅広く助成しています。具体的には、科学技術に関する研究、技術開発などの「産業・学術部門」と音楽、美術、演劇などの「文化部門」などに分かれて助成を申請することができます。
香川大学がおこなった『しょうどしま長命草』の研究も、長命草がもつ将来性と成長性が高く評価され、支援の対象に選ばれました。