小豆農業改良普及センターでは、国家資格をもつ専門の職員が、農業技術や経営改善に関する支援など、島の農家に対してサポートしています。年平均気温15.6℃の温暖な瀬戸内式気候の小豆島には、現在、987戸の農家がいますが(平成27年度)、台風のときはかなり風が強く、沿岸の畑や果樹園は潮風や波をかぶる被害も多いのです。農業者の高齢化が進み耕作放棄地の問題もあります。長命草はこれらの問題を解決してくれる作物であると期待しているのです。
長命草はもともと沖縄の塩分濃度の高い海岸沿いや、潮風のある環境で自生していた植物です。その長命草を小豆島で栽培するにあたって、農家さんは畑に海水をまいたりして塩分濃度を高めていました。ご存知のように醸造業は小豆島の基幹産業でり、その醤油の搾り粕は毎年 6,000トンも廃棄されていますが、現状はお金を払って廃棄処理されています。島で廃棄されていた醤油粕を長命草の肥料として有効活用できないだろうかということで、醤油粕を実験的に畑に施用し始めました。まだまだ栄養価を含む醤油粕をどのくらい入れることで塩分を好む長命草の生育が良くなるのか、一方で、塩分の多い醤油粕が土壌に入ることで、畑に影響はないのか、その適正量はどのくらいかを調べる実験をおこなっています。
具体的には、醤油粕をまったく施肥していない畑から 1m²にあたり0.5キロ~3.0キロまでを醤油粕の施肥量を変えたもの5タイプの畑を設定し、半年間にわたり毎月、畑の土を採集して計測しました。
PH(水素イオン指数)とEC(電気伝導率・塩類濃度の指標)をチェックすることで、長命草の生育状態と土壌の状態を検証するのです。
その実験結果は、我々の予想をはるかに上回る好結果でした。醤油粕 1.0~1.5キロ/m²の範囲が生育や土壌の状態がとても良好でした。さらに、半年間で醤油粕の塩分を長命草がどんどん吸い込んでいったことが推測されます。10アール(1,000 m²)に大型ダンプ1~2台分の醤油粕を投入する計算になります。まだ今年一年目のみの試験結果なので、これから継続しておこなわないといけませんが、今後、さらに長命草の耕作面積が拡大すれば、醤油粕の有効利用先として期待がもてる結果となりました。
醤油粕には塩分のほかにも旨味成分であるアミノ酸・グルタミン酸なども豊富で、野菜に与えると甘味や旨味が増える効果もあり、島ではトマト栽培にも活用され人気商品となっている事例もあります。
また長命草は根菜類にくらべて葉物で軽いので作業負荷もかからず、ビニールハウスなどの投資金額も必要なく栽培ができるので、高齢者の農家や退職してから帰農する人にも最適な作物だと思っています。
さらに、今、島で深刻な被害をもたらす害獣のイノシシは長命草を嫌うのか、食べないことがわかっていますので、ほかの作物の畑の周りに植えることで獣害対策にも効果的なのではと考えています。
長命草のもつ栄養成分はもちろん、醤油粕の有効利用や、農家の高齢化にも対応し、獣害対策にも期待ができる。まさに「しょうどしま長命草」はこれからの小豆島の農業の未来を担う作物であると確信しています。
香川県産業技術センター発酵食品研究所とは、主な地場産業である醤油、佃煮、素麺、オリーブ、この4業種を柱に、企業の商品開発やそれに伴う研究開発をしている機関です。
400年に及ぶ醤油業や日本のオリーブ栽培発祥の地である小豆島は、歴史が証明しているようにさまざまな産業の土壌は整っています。生産から食品加工、流通など一貫して行う産業のノウハウが蓄積されている、これは小豆島ならではの強みです。私たちは新商品を開発するにあたり技術的な面でサポートし、陰で支えていくのが私たちの仕事です。成分分析など、できることはすべて対応していきます。